鹿島田真希『来たれ、野球部』

待望の鹿島田真希さんの新刊。
手にとってみてまず思ったこと。
本間違えたかしら。
表紙がラノベ風イラストなのだ。
従来の鹿島田作品ならまずありえない。

半信半疑のまま図書館で借りて家に帰って読む。
有川浩ばりのベタアマ展開これは……。
と思ったのもつかの間、おなじみの鹿島田調がゆるやかに奏でられてきたので一安心。

頭も容姿も運動神経も良い喜多義孝と幼馴染の宮村奈緒の物語。
ツンデレかと思ったらベタアマで二人の関係はつかず離れずといったかんじ。
10年前に自殺した女子高生の日記をキーにして義孝に変化が訪れる。
このあたりはデビュー作『二匹』(河出文庫)と雰囲気が似てるかもしれません。

義孝に奈緒、担任兼野球部顧問の浅田、音楽教師の小百合先生と四人の視点から描かれるので注意は必要ですが、文体はいつもよりライトなのでテンポよく読み進めることができました。

鹿島田さんの新境地といったところだろうか。
浅田先生の奥さんるみが印象的だった。
彼も義孝らの高校のOBで野球部に所属していた。るみは当時野球部のマネージャーだったのだ。
るみは義孝の一言で精神に病を負うことになる。
義孝の一言の重いことよ。
ところどころ刺激的なところはあり、鹿島田さんの作品が好きな人には楽しめると思いますが、初めて鹿島田さんの本を手にとる読者は表紙絵とのあまりに乖離したギャップにたじろくのではないだろうか。
表紙はもっとなんとかならなかったのか。
講談社のサイトを覗くと本作の執筆動機が書かれてました。

私は文学を高尚なものにはしたくはなくて、ドストエフスキーバルザックのように三面記事を読んでネタにするような娯楽読みものでありたいと、この小説を書きました。

娯楽読みものになっているのか。
それは読者ひとりひとりが決めることなのだろう。

来たれ、野球部

来たれ、野球部