読書

鹿島田真希『来たれ、野球部』

待望の鹿島田真希さんの新刊。手にとってみてまず思ったこと。本間違えたかしら。表紙がラノベ風イラストなのだ。従来の鹿島田作品ならまずありえない。 半信半疑のまま図書館で借りて家に帰って読む。有川浩ばりのベタアマ展開これは……。と思ったのもつかの…

スッキリわかるJava入門

厚さ3.5cm。ページ数にして640ページあまり。この手の本では珍しくない分量とはいえど、存在感は十分すぎるほどにある。本書は湊くんと朝香さんという二人の新入社員が、ベテランエンジニア菅原さんからレクチャーを受けながらRPGゲームを題材にプログラ…

三浦しをん『格闘する者に○』

『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞を受賞した三浦しをんのデビュー作は女子大生の就職活動奮闘記。24歳が書いた作品とは思えないくらい完成度は高い。 漫画が大好きな女子大生可南子が漫画雑誌の編集者を目指して就職活動を行うというのが粗筋。でも可南子の…

パウロ・コエーリョ『アルケミスト』

羊飼いの少年サンチャゴは、アンダルシアの平原からエジプトのピラミッドに向けて旅に出た。そこに、彼を待つ宝物が隠されているという夢を信じて。長い時間を共に過ごした羊たちを売り、アフリカの砂漠を越えて少年はピラミッドを目指す。「何かを強く望め…

羽田圭介『不思議の国のペニス』

男子校1年の遠藤は自称“エロセレブ”。2つ歳上の女とSMならぬSS関係を続けるが…。“エロ”から始まり、“ラブ”に落ちた、ぼくとナオミの恋の行方。逆走する純愛小説の傑作。『黒冷水』の著者が贈る文藝賞受賞第一作。 男子高校生の生態ならぬ性態が描かれている…

『かわいい悪魔』『京大M1物語』

『かわいい悪魔』志村貴子さんによる単発作品を集めた短篇集です。表題作を読んでも最初はよく内容が理解できず戸惑う。魔女と少年の交流を描いてるんだけど非日常なはなしなので不意を突かれちゃった。少年がとてもかわいらしいのん。のほほんと和むかんじ…

物語構造分析の理論と技法(2-1)

このところ怠けすぎていたため研究が進んでいない……。卒論では物語の構造分析が主軸になるので高田明典氏の著書『物語構造分析の理論と技法』の第II部「構造分析手順」をまとめてみました。以下第II部前半の目次です。 第II部 構造分析手順はじめに 第8章 典…

内田樹『映画の構造分析』

副題は「ハリウッド映画で学べる現代思想」。映画評論の本ではありません。<誰でも知っている映画を素材に使った、現代思想の入門書>なのです。 第1章「映画の構造分析」において、内田は<メディアから提供されるすべての情報は「物語」です>と言いきり…

つかこうへい『蒲田行進曲』

映画『新撰組』で、はじめて主役を演ることになった銀四郎。その恋人で、かつてのスター女優小夏。そして銀四郎を慕う大部屋のヤス。銀四郎は、あたらしい「女学生のような」女の子に熱を上げ、妊娠した小夏をヤスに押しつけようとし、小夏は銀四郎を諦めて…

内田樹『子どもは判ってくれない』

語り口とは裏腹に刺激に満ちた本である。内田先生が大人の世界を子どもへ向けて書いた本といえばいいのだろうか。題材が多岐にわたる時評にもかかわらず全然古びていない。文庫版のためのあとがきで著者自らが述べているように内部情報などの新規情報を含ん…

水月昭道『高学歴ワーキングプア』

副題は「フリーター生産工場」としての大学院。大学院博士課程まで進学し、博士の学位を得るものの就職先がないというポスドク問題を扱った本です。文部科学省が大学院の定員を増員したため、大学院への入学が容易になり本来取得が難しかった博士の学位も比…

島田恒『NPOという生き方』

NPOの役割と経営について比較的詳しく述べられている。NPOとは直接関係ないところもあるが、経営学の立場から書かれているところは学ぶところが多く、企業関係者にもお勧めできる本であった。多少読みづらい部分もあるが、新書サイズなので手軽に読め…

山岡義典編『NPO実践講座2』

副題は「人を活かす組織とは」。NPO法人の運営に携わっている方が、法人設立の経緯や事業内容、運営方法などを綴った本。いわゆる体験談なので読みやすくNPOを立ち上げようと考えている人にとっては参考になるところも多い。 第一章は総論。企業との違…

『キテレツ大百科』

いわずと知れた藤子・F・不二雄さんのコミック。小学館の藤子・F・不二雄大全集で読みました。 似たような物語でも読者をひきつける力と、特徴のあるキャラクターが全面にでていて飽きさせない。さすがだなあというか職人芸の域に達しています。なによりオ…

ジョナサン・カラー『文学理論』

平易でわかりやすい文学理論入門書。本書の特徴は、文学理論の流派を歴史や人物で区分するのではなく、各流派に共通するトピックについて述べることで文学研究もとい文学理論に触れている。1 理論とは何か? <理論というのは名前(ほとんどが外国人の名前)…

古屋×乙一×兎丸『少年少女漂流記』

僕はみんなと同じようにうまくやれているだろうか? このままちゃんと大人になれるのだろうか? 友情、恋愛、容姿、不登校、家族…抱えきれない不安と過剰な自意識にさいなまれて、少年少女たちは非日常の別世界に迷い込む。妄想か、現実か。漂う彼らが行き着く…

小阪祐司『「感性」のマーケティング』

感性マーケティングとは、副題にもあるとおり「心と行動を読み解き、顧客をつかむ」マーケティング戦略である。つまり、人の行動に着目し、行動の動機を感性で説明する。著者によると感性工学と呼ばれる学問分野で研究が行われているそうだ。用語はたくさん…

桐野夏生『東京島』

清子は、暴風雨により、孤島に流れついた。夫との酔狂な世界一周クルーズの最中のこと。その後、日本の若者、謎めいた中国人が漂着する。三十一人、その全てが男だ。救出の見込みは依然なく、夫・隆も喪った。だが、たったひとりの女には違いない。求められ…

笹生陽子『ぼくは悪党になりたい』

時代をうまく表現している作品だと思った。出版されたのは2004年6月。草食系ということばが定着する以前に自分を草食獣に例える主人公兎丸エイジ。美男子の友人羊谷とバーガーショップでだべっている場面からこの物語ははじめる。名前も温厚そのもの。父親…

ヘッセ『知と愛』

原題は「ナルチスとゴルトムント」。相反する二人の男が互いに惹かれあうさまを描いた作品といえば単純明快なのだが、にもかかわらず深い作品であった。美少年ゴルトムントが修道院に入る少年時代から物語ははじまる。見習い僧であるナルチスに感化され、愛…

川上未映子『わたくし率 イン 歯ー、または世界』

芥川賞候補になった表題作及び「感じる専門家 採用試験」の二篇からなる。 文筆歌手を自称するだけあって、流れるような関西弁が気持ち良かったりもするのだが、表題作はそこそこ長めなので途中でだれます。表題作は歯にアイデンティティーのある私が、歯科…

野上暁『越境する児童文学―世紀末からゼロ年代へ―』

『飛ぶ教室』に「児童文学一九九〇〜二〇〇五」として連載されていた文章を一冊にまとめた本です。児童文学評論というよりはブックガイドというかんじで、考察よりも本の粗筋紹介にページが割かれているのが特徴である。「かいけつゾロリ」みたいな幼年向け…

堤清二、三浦展『無印ニッポン』

T型フォードの発売からリーマン・ショックまで一〇〇年。自動車の世紀だった二〇世紀が終わり、消費文化は大きな曲がり角を迎えている。大流通グループ「セゾン」を牽引し、無印良品を生み出した堤と、地域の文化の衰退を憂慮する三浦が、消費の未来、日本の…

内田裕也『俺はロッキンローラー』

永遠のロッキンローラー内田裕也の幻の名著が遂に文庫化!少年時代のとんでもない話、’76年当時のRock’n Rollな現場、魂ゆさぶる金言集など、裕也スピリット満載の1冊。文庫化ではデザインも忠実に再現。 タイトルにもあるとおり、人生をロックンロールしてい…

森達也『放送禁止歌』

岡林信康『手紙』、赤い鳥『竹田の子守唄』、泉谷しげる『戦争小唄』、高田渡『自衛隊に入ろう』……。これらの歌は、なぜ放送されなくなったのか? その「放送しない」判断の根拠は? 規制したのは誰なのか? 著者は、歌手、テレビ局、民放連、部落解放同盟へ…

津原泰水『ブラバン』

一九八〇年、吹奏楽部に入った僕は、管楽器の群れの中でコントラバスを弾きはじめた。ともに曲をつくり上げる喜びを味わった。忘れられない男女がそこにいた。高校を卒業し、それぞれの道を歩んでゆくうち、いつしか四半世紀が経過していた―。ある日、再結成…

内田樹『街場の現代思想』

「バカ組・利口組」に二極化した新しいタイプの階層社会が出現しつつある。そんな格差社会において真に必要な文化資本戦略とは何か?日本の危機を救う「負け犬」論から社内改革の要諦まで、目からウロコの知見を伝授。結婚・離婚・お金・転職の悩み…著者初の…

トーマス・マン『ヴェネツィアに死す』

高名な老作家グスタフ・アッシェンバッハは、ミュンヘンからヴェネツィアへと旅立つ。美しくも豪壮なリド島のホテルに滞在するうち、ポーランド人の家族に出会ったアッシェンバッハは、一家の美しい少年タッジオにつよく惹かれていく。おりしも当地にはコレ…

鹿島田真希『六〇〇〇度の愛』

女は長崎へと旅立つ。夫と息子をおいて。長崎で青年と出会い、情事を重ねる女。アトピーで背中が被れた青年は純粋で愚か者。名前を知らない彼を女は長崎と名付けた。女には狂気のなかで死んだ兄と兄を溺愛した母がいた。語りえない家族の物語と長崎での自分…

田山花袋『少女病』

自然主義文学の祖、田山花袋の作品です。小説自体は短くて、半分は藤巻徹也氏が高田里穂さんを撮った写真集。文庫サイズだがカバーは厚く、カラー写真満載となれば値段相応なのかなというかんじ。 主人公は三十七歳の売れない作家で雑誌社で編集をしているぶ…