桐野夏生『東京島』

清子は、暴風雨により、孤島に流れついた。夫との酔狂な世界一周クルーズの最中のこと。その後、日本の若者、謎めいた中国人が漂着する。三十一人、その全てが男だ。救出の見込みは依然なく、夫・隆も喪った。だが、たったひとりの女には違いない。求められ争われ、清子は女王の悦びに震える―。東京島と名づけられた小宇宙に産み落とされた、新たな創世紀。谷崎潤一郎賞受賞作。

弧島で女が一人。東京を模した島でのサバイバル生活。設定ありきの小説だなー。と思ったら、実際の事件をモチーフにしてるのですね。驚いてしまった。

蛇や鼠や椰子を食べるげんなりするような生活がつづく。衣食住は各自で調達しなければならない。毎日同じようなものを食べて、暇すぎる時間を過ごす。
読んでてわかるのは、誰もがみな自分勝手なのだ。カリスマ指導者が現われて、街づくりが行われるあたりからはぐっと温厚になっていくのだけれど。主人公の清子なんか特にそう。無人島の虚しい毎日という背景のうえに、清子の視点から語られるから幾分哀れにうつるのだけど、哀れだけど自分勝手だーよ。極限状態で人間の心に潜む欲望と無気力との葛藤があられもなく見えるから我々は快楽を覚えるのですね。納得納得。

中国人一行が島に放流されてからは、微妙な対抗意識が芽生えてくる。日本人と中国人の間で揺れる清子。なぜ揺れるかは本書を読んでからのおたのしみ。国交小説みたいな趣きがあって読ませます。

本書の見所は、女という性にしがみつく清子なのです。島で唯一の女性とだけあって大切にはされるものの、清子も高齢なだけに島の生活はツライ。女神として君臨するところから子供を孕んでという展開はなかなかイケてます。同性愛カップルが数組できるあたりは現代的かしらね。

最終章は涙を潤ませるような内容だったりする。
壮大な物語を構築した桐野さんあっぱれである。好き嫌いがはっきりする小説たい。

映画版が今夏劇場で公開されます。どうなるのか想像できないというか映像化できるのだろうかまじで。

東京島 (新潮文庫)

東京島 (新潮文庫)