小阪祐司『「感性」のマーケティング』
感性マーケティングとは、副題にもあるとおり「心と行動を読み解き、顧客をつかむ」マーケティング戦略である。つまり、人の行動に着目し、行動の動機を感性で説明する。著者によると感性工学と呼ばれる学問分野で研究が行われているそうだ。用語はたくさん出てくるがアカデミックな本ではないため、比較的読みやすい。
本書ではまずビジネスの現場で良くあるズレ(誤解)について述べ、対策方法に触れている。例えば、商品開発部が一生懸命考えた新商品開発案が社長の一言で決まることについて、客観的な指標を持つべきだというふうに。まあ、その通りなので反論はできません。
続いて、感性マーケティングに必要な道具立てや方法論について教授する。本書の肝になるところ。最後にフォローしてまとめる。第3章から最終章(第六章)の目次を要点だけまとめるとこんなかんじ。
・感性でビジネスを組み立てるためのモジュール
- 感性トレンド
構成要素:メガトレンド、モード、テクノロジー、環境 - 感性メカニズム
- 認知メカニズム
・「感性」のビジネス活動を左右する六つのインパクト
- 提供すべきサービス
- 商品力
- 企業力
- 顧客との関わり
- 顧客の選択基準
- 企業の収益力の基盤
・今、結果を出していくための三つの重要な取り組み
- お客さんの感性に訴え、感性を育成する
- 人間的なコミュニケーションを行い、顧客コミュニティを育成する
- 感性を軸にした商品ライン・MDを持つ
・これからのビジネスパーソン個々人に必要なことば
- こうすれば人間の行動を分解する力がつく
- こうすれば人の行動のストーリーを描く力がつく
- こうすればお客さんの感性をつかむアイデアが豊富になる
おわかりになられるでしょうか?
ちょいと抽象的すぎますよね。説明するとモジュールがマーケティングを行ううえでの思考の枠組み。感性トレンドは、人の感性の動向で、感性トレンドが変化する要因がメガトレンドをはじめとする4つの要素なのである。感性メカニズムは、人が感情を発するときに行われる脳の情報処理のこと。認知メカニズムは物を判断するときの知覚情報処理のことだ。といってもわかりにくいので、著者は具体例として居酒屋の「すごいビール」を挙げている。他の居酒屋と内容の変わらないビールであっても、メニュー1ページ丸ごとビールについて触れ、ビールについて折に触れて意識させることで、顧客もふつうのビールをすごいと「認知」するようになっちゃうこともあるのだそうだ。
インパクトについて。マーケティングを実行していくうえで考慮すべき事柄。提供すべきサービスは読んで字の如し。狭義のサービスではなく、すべてのビジネスが提供する対価となるもの。至極ごもっとも。商品力。機能面だけでなく感性に訴える商品をということらしい。アップルの商品とか。企業力は、企業のメッセージ、つまり、全商品に共通している理念みたいなものだ。顧客との関わりは、企業と顧客(BtoBの場合は企業と企業)のコミュニティみたいなもの。顧客の選択基準は、誰から買うとうれしいかということらしい。人のよいアットホームなショップは心地よく感じる人もいますねというかんじ。企業の収益力の基盤はまたしても顧客との絆。言い換えるならばブランドである。
以下めんどくさくなったので省略するけど、書いてるまんまです。要は本人の感性よりも、お客さんに行動してもらうことのほうが100倍重要なのです。センスよりも経験値。
感想です。「顧客との関わり」については共感できた。精神的な絆が大事で、購買意欲を掻き立てる。集団意識が高まっているというか、自己を確認するためにコミュニティに属する人が増えている。ビジネスチャンスも当然あるというわけだ。なるほどねー。感性に基づいた商品陳列の例としてヴィレッジヴァンガードが取り上げられていた。マーケティングの例によく取り上げられるなあ。
ソリューションからサービスへの転換については一読する価値あり。ただし、単なる問題解決だけがソリューションビジネスではありません。潜在化している問題を解決できてこそのソリューションなので。著者が解くマスタービジネスは、伝道師となって人生をより豊かにするためのお手伝いをするというもの。骨董品とかまさしくそう。個人客向けのビジネスかしらね。
感性マーケティングという考えかたには賛同するが、書き方がいかんせんくどいし、感性消費行動デザインをはじめとした用語が本書を胡散臭いものにしていることは否めない。もったいない。
「感性」のマーケティング 心と行動を読み解き、顧客をつかむ (PHPビジネス新書)
- 作者: 小阪裕司
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2006/11/18
- メディア: 新書
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