パウロ・コエーリョ『アルケミスト』

羊飼いの少年サンチャゴは、アンダルシアの平原からエジプトのピラミッドに向けて旅に出た。そこに、彼を待つ宝物が隠されているという夢を信じて。長い時間を共に過ごした羊たちを売り、アフリカの砂漠を越えて少年はピラミッドを目指す。「何かを強く望めば宇宙のすべてが協力して実現するように助けてくれる」「前兆に従うこと」少年は、錬金術師の導きと旅のさまざまな出会いと別れのなかで、人生の知恵を学んで行く。欧米をはじめ世界中でベストセラーとなった夢と勇気の物語。

角川文庫夏の100冊にも選ばれ世界中で売れているパウロ・コエーリョの小説です。羊飼いの少年がピラミッドに向けて宝探しの旅にでるおはなし。以前、娼婦マリーアを主人公に事のかかる時間を表題にした『11分間』(角川文庫)に感銘して手を伸ばしました。
コエーリョの作品は寓話めいたものが多いですが本作品に関して言えば、内容が観念的すぎるがゆえに物語が空回りしているような印象を受けました。
適当なページをめくっていただくとわかるのですが、会話という会話に教訓めいた言葉が続出します。
ひとつひとつが抽象的すぎて何事にも当てはまるかもしれないけど無難というか煙に巻くような言葉ばかりです。この手の小説が苦手な人にとっては読み進めるのが疲労の種。
一目ぼれを超越した運命的な出会いなど常人には理解しがたい場面もありますが、感情に訴えるわけでもなく淡々と進むので置いてきぼりをくらいます。主人公は少年という割に思慮深いのはご愛敬かな。
本小説の肝は自分なり運命を信じることに集約されますが、結局のところ少年に大きな困難があるわけでもなく。無一文になったりするけど抑圧された文体で危機感はあまり伝わってこないし。次々と成功を重ねていくわけで。もう少しスリルがないとねー。啓蒙小説と割り切って読めば楽しめたのかもしれません。
とまあ苦言を呈してばかりなのですが、この本が人生の指針を示した現代の聖書だと考えればはなしは別で売れるのも納得です。
すがるべくは神様よりも本。信仰している神は関係ないと本書で誰かが言ってたし。絶賛レビューが多いのも頷けるのではないでしょうか。

アルケミスト―夢を旅した少年 (角川文庫―角川文庫ソフィア)

アルケミスト―夢を旅した少年 (角川文庫―角川文庫ソフィア)

  • 作者: パウロコエーリョ,Paulo Coelho,山川紘矢,山川亜希子
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 1997/02
  • メディア: ペーパーバック
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