喜多ふあり『けちゃっぷ』

引きこもり女子HIROは全く口をきかないが、人と話す時は携帯から、言いたいことをブログにアップして爆裂トーク。血でもない、ケチャップでもない、「血のり=けちゃっぷ」のようなバーチャルな現代に迫る、驚愕すべき才能の誕生。

昨年の文藝賞受賞作。
人と口をきかずに思ったことを四六時中ブログにアップしている女“改造人間ブログ更新ツヅケル”HIROが、ブログにコメントを書いてくれたヒロシに出会い、彼の撮影現場に行くことになる。

たえず「と私はブログに書き込んだ」と挿入されているのが本作の特徴で、ブログにアップする文章が並べられている。書き込んだ地点では過去であっても、出来事と同時進行で文字を打っているためにとてもリズミカル。過剰で冗舌な文体は読む人によって好みがわかれそうではあります。

ブログという私の意識を再構築したものを小説に昇華させたことは十分に「新しい」試みといえる。
だが、選考委員の田中康夫氏が言っている「ニッポンの「リアル」を活写し」云々には少し疑問かな。なぜって全然リアルじゃないのである。もちろん現実にありそうというのではなく、現代人の意識のありようを「リアル」だと言ったのだろうけど、ブログを更新しつづける女にリアリティはないのです。

結局のところ、リアルだかバーチャルだかわからなくなって、いままでどおりの平穏な引きこもり生活が戻ってくるとき、そこにはなにがあるのだろうか(なにもないんです!)、仮想機器に支えられている私たちに一体なにがリアルだと言えるのかということです。

意図的なのはわかるけど、はしゃいでる文章に私は最後まで耐えられなかった。

けちゃっぷ

けちゃっぷ