田山花袋『少女病』

自然主義文学の祖、田山花袋の作品です。
小説自体は短くて、半分は藤巻徹也氏が高田里穂さんを撮った写真集。文庫サイズだがカバーは厚く、カラー写真満載となれば値段相応なのかなというかんじ。
主人公は三十七歳の売れない作家で雑誌社で編集をしているぶおとこ。美文に凝って少女小説を書いている男は毎日電車で好みの女の子を見つけて観察しては妄想をくりひろげている。
これはれっきとしたストーカー小説です(実際、お気に入りの少女の後をつけて家まで行ったという記述がでてきます)。あの子はいつもとリボンが違うだの、自分のことを覚えているはずだだのと読んでいる身からするとキモいこと甚だしいのですが、過剰性が笑いを生みページをめくる手に拍車がかかります。
微に入り細を穿った描写が主人公の変態ぶりを強調している点は見逃せません。一例を見てみましょう。〈肉づきのいい、頬の桃色の、輪郭の丸い、それはかわいい娘だ。はでな縞物に海老茶の袴をはいて、右手に女持ちの細い蝙蝠傘(中略)見ぬようなふりをして幾度となく見る、しきりに見る〉。……。全編この調子で進んでいきます。少女と主人公の容姿とのギャップが激しすぎて鮮烈なコントラストになっている。男の容姿はといえば〈猫背で、獅子鼻で、反歯で、色が浅黒くッて、頬が煩そうに顔の半面を蔽って、ちょっと見ると恐ろしい容貌〉といった感じでひどい。小説は細部に宿るというけど、まさにそのとおりです。
一番笑ったのが63ページから74ページの男についての噂話。おもいっきり下ネタなのに半分真面目に話していて〈だって、子供できるじゃないか〉じゃないよ! 第三者の視点だから好き放題書けるわけですね。
人を笑わせるのって難しいなあと常日頃思うのですが、花袋の場合は技術をともなっている笑いなんですよね。素晴らしい。
男の近作を読んで相変わらず美しいですねとか厭味を言ってる編集長の相づちを打つように編集者が発する〈少女万歳ですな!〉という皮肉たっぷりのコメントがツボ。ここまで徹底的に男を陥れるなんてふつうできません。ラストはあっけないというかあほらしいの一言ですが、古典だからといって疎遠にしとくのは勿体ない作品です。

少女病

少女病