粕谷知世『ひなのころ』

お雛様や、お人形とも話せた幼い日々、病弱な弟を抱える家族の中で、ひとり孤独を感じていた頃、将来が見えず惑い苛立った思春期。少女・風美にめぐる季節を切り取り、誰もが、心のなかに大事に持っている“あのころ”の物語を描き出す。期待の新鋭、初の文庫化。

ストーリーテリングの腕が冴える、ノスタルジーあふれる四季の物語。
世界が不思議で満ちていた幼いころと、何でも知っているつもりだった中高生時代。
少し前の日本で暮らしている主人公、郷田風美をめぐる小説である。
おばあちゃんがいて、田舎町でのどかな風景。私の子供の頃の環境が主人公の風美にそっくりで、私なんかは勝手に風美を昔の私と重ねあわせ感情移入して読んじゃいました。病弱な弟がいて、幼い頃かまってもらえなかった気持ち、なつかしいなあ。
誰も私のことなんかわかってくれないんだ――って思う時期は誰にでもあるんじゃないでしょうか。粕谷さんはちょっといじわるな視点から、風美を追い詰めていくので、ノスタルジーが単に美化されるだけの作品になっていない。そこが大変好ましい。
お雛さまや死んだ人とはなしかけたり普通にしているのだが、子供ながらのこういう描写に耐えられるかどうかが、この作品を受け入れれるかどうかのポイントとなりそう。あざといかもしれないけど、最後にほろりとさせられる。
涙腺が弱い私は、少し泣きました。あまり知られていない作家さんですが、ストーリーテリングの醍醐味を味わうには打ってつけ。

ひなのころ (中公文庫)

ひなのころ (中公文庫)