津原泰水『ブラバン』

一九八〇年、吹奏楽部に入った僕は、管楽器の群れの中でコントラバスを弾きはじめた。ともに曲をつくり上げる喜びを味わった。忘れられない男女がそこにいた。高校を卒業し、それぞれの道を歩んでゆくうち、いつしか四半世紀が経過していた―。ある日、再結成の話が持ち上がる。かつての仲間たちから、何人が集まってくれるのだろうか。ほろ苦く温かく奏でられる、永遠の青春組曲。

上手すぎる。恐るべし津原泰水
高校を卒業して二十数年たった中年世代の男女が吹奏楽部(ブラスバンド)を再結成するおはなしです。
よくありそうな話だなと思われたかもしれません。ネタばれになりますが、結論からいうと(よくありそうな話のように)高校時代のメンバー全員が集結するなんていう奇跡は起きません。ていうかありえないでしょふつう。作者は冷静な語り手、他片等を用意します。たんに冷静なだけじゃないのがミソで、後半以降彼の性格なり真の感情が浮かび上がってきます。バーの洒落た雰囲気と貧窮具合のギャップもグッドですね。
多くの登場人物が登場し、現在と過去を自由自在に行き来するため、人物を把握したりするのが大変なのは事実です。一癖も二癖もある吹奏楽boys&girlsですが、主人公にとって重要な人物印象に残っている人物とそうでない人物がいる。
妙にリアルなんですね。さじ加減が巧の域。
直球の青春小説ではない=予定調和のお涙頂戴ものではないことを意味しています。評価がわかれるのはここだと思います。甘美な青春なんて幻想に過ぎないことを、美化されたノスタルジーを排していながらも絶えず涙腺を潤ませる物語。
本筋に関係なさそうな蘊蓄やらエピソードも、よく考えてみるとどれも外せないもので用意周到なんである。楽器やアーティストを知らないために、読みづらくなることもあったけど、作品の魅力が半減するには到りませんでした。
再結成がメインなんだけどどちらかというと高校時代のエピソードが多い。キーパーソンは安野先生です。
機材とかアーティストの小咄も時代を映していて80年代の空気みたいなものが詰まっている。半分以上知らないけど問題はあまりないです。あと広島弁。すんなり耳に入ってきます。本当に隙がない。
津原泰水さんの作品では、普通の小説です。私は他に『ピカルディの三度』(集英社)しか読んだことないですが、幻想・奇術・耽美系の作家なので、他の作品は色合いが違います。お気をつけて。うまく感想を伝えられないもどかしさだけが残りました。

ブラバン (新潮文庫)

ブラバン (新潮文庫)