水月昭道『高学歴ワーキングプア』

副題は「フリーター生産工場」としての大学院。
大学院博士課程まで進学し、博士の学位を得るものの就職先がないというポスドク問題を扱った本です。文部科学省が大学院の定員を増員したため、大学院への入学が容易になり本来取得が難しかった博士の学位も比較的簡単に手に入れられるようになった。しかし、悲しいことに定員が大幅に増えたにもかかわらず主な就職先である研究職(大学教員)のポストは減るばかり。

行方不明者や自殺者の割合も通常に比べ極端に多く笑えない問題である。
企業も博士課程出身者を敬遠しがち。深刻な問題にもかかわらず文部科学省はなにをしてるんじゃいってなわけである。著者自身が当事者であるためか余計に切実感が伝わってきた。
本書はポスドク問題を正面から扱い、世間の明るみに出したというだけでも価値はある。ただし、ちょっと書き方には引っかかったかな。

大学院増員の歴史についても当然多く触れられている。背景には東大法学部と文部科学省の癒着構造も見られるようだが、なんでもかんでも東大と文科省のせいにするのはいかがなものか。もうすこし冷静に筆を進められないのか。感情が明け透けすぎてちょっとひいた。
大学院のメリット、デメリットを述べている箇所もちと気にかかる。物事の本質を見抜く能力やコミュニケーション能力が身につくというのは、特に後者の場合大学院にわざわざ進み必要はないと思うし、生き抜く力を身につけるにあたっては。。。
六年の歳月にこだわる必要はないって、じゃあなんで大学院に進んだのさってはなしなんである。

こういった類の本は、大学院の歴史云々といったことよりも実際に博士卒で困っている人の具体的な事例をつまみ食いすればいいのかもしれませんね。

あ。もちろん感心させられたところもあります。
第七章「学校法人に期待すること」の私学は特に精神を大切にすべしという意見には同意です。受験生の気を引くために中身の伴わない学部増設を行うというのは、短期的な視点でしか大学経営を考えていないというかどうしても短絡的に見えてしまう。長期的に考えたとき重要になってくるのは大学の気質とか各大学特有の精神みたいなものではないかと思う。早稲田大学の在野精神みたいなのは一例かな。設備とか箱うんぬんというより校風みたいなのが受験生を集めている。そして脈々と受け継がれる。当然、強固な基盤を獲得できるのである。
まあまあ、大学院の危険性を指摘し議論されるべき話題を提供したということでしょう。大学院の実態を裏情報として読むことが出来ればネタとして十分に楽しめる本です。我が身のことと思わねば。とはいいつつ近年の就職難によって大学院へ進む人が増えそうである。私もそうなりそうなので気付薬として読んでみた次第。いまだからこそ第三者として読めますが……。

高学歴ワーキングプア  「フリーター生産工場」としての大学院 (光文社新書)

高学歴ワーキングプア 「フリーター生産工場」としての大学院 (光文社新書)