内田樹『街場の現代思想』

「バカ組・利口組」に二極化した新しいタイプの階層社会が出現しつつある。そんな格差社会において真に必要な文化資本戦略とは何か?日本の危機を救う「負け犬」論から社内改革の要諦まで、目からウロコの知見を伝授。結婚・離婚・お金・転職の悩み…著者初の人生相談も必見。話題の名著がついに文庫化。

『日本辺境論』(新潮新書)が好評になっている内田樹先生の『街場の現代思想』(文春文庫)を読みました。文化資本主義の到来を説いた第一章、勝ち組負け組の二極化現象に潜む矛盾について語った第二章、読者からの人生相談に答える第三章の三部構成をとっています。巷の宣伝風にいえば、現代社会を平易かつ明快(アクチュアル)に説いた本である。平易といっても、私のような庶民は頭を回転させなければならない。けど適度の思考が読者に快感を催すのです。
労少なくして実になること多し!
難解な書物にあるような専門用語とか、幾多にも連なる長くて熟語ばかりのセンテンスはありません。先人の膨大な「知」から、重要なエッセンスを噛み砕いてさらっと流して書いてある感じ。さらっと書けたり、自分で解釈しているるあたりが格好良いのです。それを鼻にかけないところが、さらに好印象を抱かせる。
第一章の冒頭で、教養すなわち〈知識や情報を整理したり、統御したり、操作したりする「仕方」〉への切実さが若者には薄れていることを内田氏は指摘している。特定ジャンルに関心が集中するあまり、俯瞰的な見方が欠けているのだ。その例として、二人の少女の会話を引用すると……。
〈「趣味? 音楽聴くこと。もう朝から晩まで!」
「わ、ほんと? 私もよ。ねえ、何聴いてるの?」
「私? マリリン・マンソン。あなたは?」
「……スピッツ」〉
これには笑った。そりゃ、マリリン・マンソンスピッツでは同じ音楽でも全然違うがな。特定ジャンルへの偏った関心はオタク化と根底で似ているところがあるような気がした。
競争よりも協調が求められることも、教養主義の崩壊と関係しているだろう。知ったかぶりしてなんぼの時代ではないらしい。教養への切実さの欠如は、ときとして教養の価値を高め、教養への渇望を催す可能性を有している。物知りで論理的に思考ができる内田先生は現代の知識人なのかなあと思った。教養が大衆化している現代において、鏡のような存在である。従来の知識人(立花隆etc...)は、どこか近づきがたい読者との距離があった。知識を担保として威厳が保たれており読者との間に見えない線が引かれていたのだと推察する。でも、内田さんの文章は読みやすく、普通のおっさん臭がする。とても近づきやすいのである。21世紀型知識人とは斯くあるべし!
ちなみに現代思想を勉強したい人には、難波江和英さんとの共著である『現代思想のパフォーマンス』(光文社新書)をお薦めします。現代思想を代表する六人を取り上げて、解説するだけでなく思想を実践するという大変に実用度の高い本です。

街場の現代思想 (文春文庫)

街場の現代思想 (文春文庫)