野上暁『越境する児童文学―世紀末からゼロ年代へ―』

飛ぶ教室』に「児童文学一九九〇〜二〇〇五」として連載されていた文章を一冊にまとめた本です。児童文学評論というよりはブックガイドというかんじで、考察よりも本の粗筋紹介にページが割かれているのが特徴である。「かいけつゾロリ」みたいな幼年向け児童文学から「西の魔女が死んだ」みたいな大人にも支持されているような作品まで幅広く扱っている。知識を無駄なく増やすのにはうってつけかもしれない。
森絵都江國香織をはじめとして児童文学出身作家の一般文芸での活躍ぶりについての理由を個人的には知りたかったのですが、過程は記されても理由はない。物語性というか虚構の持つ力でしょうか。指輪物語のような翻訳ファンタジーが年齢に関係なく読まれている状況を鑑みるに、人はファンタジーを求めているのかもしれない。極めて平凡つうか自明のことを書いているわねごめんなさい。

児童文学と一般文芸、ひいては子供と大人の境界が揺らぎはじめた九十年代。少年による凶悪犯罪が明るみになり、それとリンクするかのように新たな傾向の作品が世に出ていく。
終始、上記のような考察で別に驚くようなことは一切書かれていない。歴史ファンタジーの流行について書かれているところはおもしろかった。粗筋だけでなく作家の創作背景っぽいところもあったから。やっぱりブックガイドとして読むのがまっとうだとおもった。

内容は可もなく不可もないかんじでしたが、校正をしっかりしてほしいです。引用が一ヶ所だけ一段下げられていなかったり、何を言いたいのかわかりにくい文章が沢山あったりした。例えば、あさのあつこ「バッテリー」を内容紹介しているくだり。

父の転勤で母方の祖父の家で暮らすことになった中学一年生の野球少年が、かつて高校野球の名監督だった祖父とバッテリーを組むことになる少年との出会いが、熱く爽やかに描きだされた人気を呼びシリーズ化された。

「……が、……が」という繋がらないことばたち。思わず何度も読み返してしまいました。

越境する児童文学―世紀末からゼロ年代へ

越境する児童文学―世紀末からゼロ年代へ