川上未映子『わたくし率 イン 歯ー、または世界』

芥川賞候補になった表題作及び「感じる専門家 採用試験」の二篇からなる。
文筆歌手を自称するだけあって、流れるような関西弁が気持ち良かったりもするのだが、表題作はそこそこ長めなので途中でだれます。表題作は歯にアイデンティティーのある私が、歯科助手としてアルバイトをはじめ、恋人青木との距離感を示しつつ、いもしない胎児に向けて日記を書いたりする。
大部分は私や歯に対する問答だったりする。とにかくはちゃめちゃ。内容とか文章の意味とかいちいち考えるより、ことばの連なりを楽しむという側面がある。感性でも計算でもどちらにしても堪忍してやーって叫びたくなった。
主人公が青木のマンションに押し掛けるところから怒濤の如き展開で川上節が炸裂して躍動して矛盾なんてどうでも良くなります。心地よい文章がリズミカルに頭に入ってくる。カタルシスなんやけど、そこまでが異様にだるい。惜しい!

「感じる専門家 採用試験」は短くて良かった。
物語性を排して畳み掛けるような文章で描くのであれば断然短いのがいいです。意味のない会話やら独白を重ねた作品を長く楽しむのは難しいなあと感じる。モチーフが偏っているのが気になる。半分私小説入ってまっかという雰囲気です。所々爆笑したし、おもしろかったけどやっぱりついていけませんわー。

わたくし率 イン 歯ー、または世界

わたくし率 イン 歯ー、または世界