森達也『放送禁止歌』

岡林信康『手紙』、赤い鳥『竹田の子守唄』、泉谷しげる『戦争小唄』、高田渡自衛隊に入ろう』……。これらの歌は、なぜ放送されなくなったのか? その「放送しない」判断の根拠は? 規制したのは誰なのか? 著者は、歌手、テレビ局、民放連、部落解放同盟へとインタビューを重ね、闇に消えた放送禁止歌の謎に迫った。感動の名著、待望の文庫化。

テレビディレクターとして活躍する森達也氏が、1999年に放送した「『放送禁止歌』〜歌っているのは誰?規制しているのは誰?〜」という番組の製作過程での取材が元になった本である。
なにより衝撃を受けたのは、放送禁止歌なんて存在しなかったということ。民放連による「要注意歌謡曲」は、あくまでガイドラインであって、放送するかしないかはメディア(放送局)に委ねられているのです。にもかかわらず、「放送禁止歌」という認識が一人歩きしてしまい、メディアに携わる人間や視聴者である私たちは、事実を確認することもなくその認識を受け入れてしまう。
森氏も本文で述べていましたが、所謂「共同幻想」というやつでしょうか。第一章で、番組が出来上がるまでの流れと放送禁止歌の認識に触れた後、第二章では個別の歌に焦点が当てられ背景を、第三章ではデープ・スペクターを交えての日米比較対談がなされている。第四章では番組放送終了後に改めて著者が気になっていた「竹田の子守唄」について、京都・竹田地区を訪ね放送禁止歌から部落問題に迫っている。個人的には第三章が興味深く、日米のメディアの違いが浮彫になっている。
著者は何度も声高に叫んでいるが、思考停止させてはいけないのである。自分の手と足と目と耳を使って知ること。勇猛果敢なインタビューには恐れ入るが、諦めずに真実を目指す姿勢と安易な批判に逃れず自らを律した結果として、本書は我々がいままで認識できずにいた放送禁止歌の構造を見事に暴きだしたのである。

放送禁止歌 (知恵の森文庫)

放送禁止歌 (知恵の森文庫)