長嶋有『猛スピードで母は』

「私、結婚するかもしれないから」「すごいね」。小六の慎は結婚をほのめかす母を冷静に見つめ、恋人らしき男とも適度にうまくやっていく。現実に立ち向う母を子供の皮膚感覚で描いた芥川賞受賞作と、大胆でかっこいい父の愛人・洋子さんとの共同生活を爽やかに綴った文学界新人賞受賞作「サイドカーに犬」を収録。

長嶋有『猛スピードで母は』(文春文庫)を読んだ。中篇がふたつ。薄いので、さくっと読めます。
サイドカーに犬――小学四年生の女の子が、父の愛人・洋子さんと一夏を過ごし、成長するはなし。母と対比する洋子さんの大胆な性格に触れ、だんだんと洋子さんに打ち解けてくる。
猛スピードで母は――小学六年生の男の子が、北海道の地方都市で、力強い母親と生活する。母の恋人と意気投合したり、保守的な祖父母の家にたまに出かけたり、男の子の成長物語ですね。
ニュートラルな文章で非常に読みやすかったです。味はあまりないけど、描写に無駄がなく、お上手なんだぁ。
ただ、二作とも子供が主人公なのだが、極めて冷静というか、子供なのに(だから?)周りに振り回されている感がある。作者の投影機(器)にすぎないからなのでしょーか。
二篇合わせると、娘と父、息子と母というリバーシブルな関係に見えてくるのが面白い。両方とも女性は強い。主人公は、あまり外へ出掛けない。そう思うと、勝手に表題作の慎一が、一瞬サイドカーの弟かとも思えてきたが、同じアメリカ帰りでも口調が違います。棲息地も違います。
リアルな描写、レトロな描写。どこかで体験したようなディティールも、追体験できる。
読みやすいので、暇つぶしや朝読書みたいなのにはお薦めです。

猛スピードで母は (文春文庫)

猛スピードで母は (文春文庫)