コルネイユ『嘘つき男』

コルネイユといえば悲劇のほうが有名ですが、これは一級品のエンターテイメントでしょ。
ポアティエで法律学校を卒業し、地元パリへ昨日戻り、晴れて貴族の身となるドラント。従僕クリトンを従え、社交の道を進むが……。女を誘惑するために、見栄をはるために嘘をつく。
風刺のたっぷり効いた文句に、蜘蛛の糸のように絡み合うストーリーが、適度な緊張感を保ちつつ、終盤まで引っ張っていく。嘘を連発するため、完全なほら吹き状態。嘘を正当化するために、新たな嘘が生成されるという嘘の連鎖が、スケールをどんどんと大きくなっていくよ〜。
こんな人います。嘘という題材を扱っているので、現代でも共感でき、また非常に楽しめる話です。が、ハッピーエンドなのはどうして? 嘘をつきまくったあげく、女に嘘は見破られていたにも関わらず、周囲の状況によって、クラリスと結婚することになるドラント。数日で結婚、というのも凄まじい(しかも最初は初対面ですよ)ですけど。最後はクリトンのナレーションめいた台詞〈いかがです、嘘つき者は自分の嘘で自繩自縛。うちの旦那さまみたいに、天の恵みで切り抜けられるご仁はめったにないもの。皆さんもさぞかしご心配だったでしょう。世にもまれなる嘘つき者の鏡、ごらんのとおりの次第でした〉で締め括られます。
教訓話だったのね。でも、全然堅苦しくないのが、いい!
キリスト教徒(のはず?)ですが、嘘という悪徳を侵しても、天の恵みを受けられたと解釈するのはなんか意味深なような……。
ドラントが実際、どんな嘘をついたのかが気になるかたは、是非読んでみてください。

嘘つき男・舞台は夢 (岩波文庫)

嘘つき男・舞台は夢 (岩波文庫)