米原万里『不実な美女か貞淑な醜女か』

同時通訳者の頭の中って、一体どうなっているんだろう?異文化の摩擦点である同時通訳の現場は緊張に次ぐ緊張の連続。思わぬ事態が出来する。いかにピンチを切り抜け、とっさの機転をきかせるか。日本のロシア語通訳では史上最強と謳われる著者が、失敗談、珍談・奇談を交えつつ同時通訳の内幕を初公開!「通訳」を徹底的に分析し、言語そのものの本質にも迫る、爆笑の大研究。

知的好奇心が満たされた、と思わず錯覚してしまうくらい、米原氏の筆致は冴えており、同時通訳者の実情や言語について深く考えさせるエッセイとなっております。
多数の同業者の、シンポジウムや著書での発言を的確に大量に引用し、持論を補強したり理解しやすくする手腕もお手のモノです。論理的に話を進められない典型日本人の私なんかは羨ましく思うのだ。
真理をつく至言も、沢山あーる。
外国語を学ぶということは母国語を豊かにすることである。
確かに! 異文化と接することによって見えてくる、自国の文化・風習もありますよね。特に、日本は島国ですし、「なんとなく」「曖昧」にしてしまいがちですから、第三者の視点が必要にもなってくるのかな。
通訳は話し言葉を相手にする仕事なので、正確に訳していると長ったらしくなる余計な謝辞や、「えーっとですね、これは、〇〇でいいのかな、いや、きちんとした場なので……」みたいな意味をなさない言葉は、ばっさりと切り捨てるか、大胆に訳したほうが良いらしいです。話者の要点を正確に伝えることを旨とする通訳者の大変さ、失敗談を盛り込みつつも、同時通訳がやりがいの大きな仕事であることが本書から伝わってきます。

不実な美女か貞淑な醜女(ブス)か (新潮文庫)

不実な美女か貞淑な醜女(ブス)か (新潮文庫)