フローベール『紋切型辞典』

ここに編まれたおよそ1000の項目は、衣服、飲食物や動植物に関するもの、礼儀作法の規範、身体と病気についての俗説、芸術家、歴史的人物の逸話と彼らの評価など、多岐にわたる。フローベール(1821-80)はその記述に様々な手法を駆使して、当時流布していた偏見や言葉の惰性、硬直した紋切型の表現を揶揄し、諷刺してみせた。

絶版なのですが、学校の図書館にあった。
現在進行形で復刊フェアをやっている岩波文庫ですがこれも復刊してほしい。
辞典――〈無知な人間のために作られたもの〉、といったふうに見出し語の定義をおこなう点は辞典みたいですが、引用部分を見ていただいたらわかるように、行儀がよろしいものとは言い難い。
約千語を収録してます。こういう単語(例:つばめ)が話題にのぼったら、こう(例:春を告げる鳥、と呼ぶ)すべし、するとあなたは教養人だよ、といった感じのマナーブックに見えるのですが、これさえもフローベールの辛辣な嫌味ですから! たまりませんわ。
風刺というか皮肉がちりばめられており、今読むと、反時代的に見えてしまう記述もたくさんあります。でも、それを承知のうえで読むと、おもしろかったりする。
この作品は本当は単独ではなく、フローベールの遺稿となった未完長編『ブヴァールとペキュシェ』の一部だったそうです。
この長編の構想みたいなのは、本書の詳細な解説に記されていますが、それを読んだ限りでは、すごい長編になりそうで、惜しいなと思いました。二人の老人が色々な学問に興味を示すが、結局どれも興味を失ってしまう話、って書けばいかにもつまらなそうだけど、近代科学における知の体系化が、結局は二人には成しえないという皮肉というか根底の部分で、紋切型辞典と似ていますね。
ちなみに日本は、〈この国ではすべてが瀬戸物でできている〉。
偏見に満ちている。が、現実とは押し並べてそういうものなのだ。
(追記)現在では、復刊されている模様。さすが岩波さん。(2010.05.20)

紋切型辞典 (岩波文庫)

紋切型辞典 (岩波文庫)