角田光代『八日目の蝉』

逃げて、逃げて、逃げのびたら、私はあなたの母になれるだろうか−−理性をゆるがす愛があり、罪にもそそぐ光があった。家族という枠組みの意味を探る、著者初めての長篇サスペンス。

またしても早朝に本を読んだ。
昨年発売されてとびきり評判が良かったので、前から気になっていたのですが、角田さんの新境地ということなのでしょうか。
妻がいる男と付き合って、妊娠したのに子供を堕ろし子供を産めない体になった希和子。男の子供を見るだけ、と夫婦の部屋に侵入するのだが、手を触れてしまい。女の逃避行を描いた渾身のサスペンス。
本書は二部構成になっています。
一章は、希和子の逃走記、二章が希和子に連れ去られた恵理子が大学二年になってからの物語。
田作品だなあと思えるガジェットは本作品でも健在で、怪しい宗教団体や知らない人との同居、あっち側とこっち側の境界など角田節が炸裂する。こういうの大好きなんですよ。
希和子が途中で潜伏することになるエンジェルホームという女性しかいない施設が出てきますが、そこでのディテールがものすごく面白くて笑ってしまった。田辺エレミアに諸橋サライ――やばいよ。
他にも読みどころは沢山あるのだが、やっぱり一番唸るべくは恵理子の姿が希和子にだぶるときだろう。
一章で、恵理子が希和子の子供だと誰も疑問を感じないという違和感。二章で妊娠した恵理子が「あの女」と同じではないかと思うこと。軽いようでいてずっしりと重い想いが、数々の出会いによって噴出されていく。
読みおわったあとに余韻に浸れること請負です。
本書において、エンジェルホームでの二週間にわたる研修(スタディ)で「あなたは男ですか?女ですか?」「なぜ女と言えるの?」「それは本質ではないでしょ」などといったほとんど禅問答のような問いが繰り返されるのだが、この胡散臭いはずの問いになぜか私は考えさせられてしまった。
(追記)NHKでドラマ化されましたね。すこし観ました。ドラマだとラストはああせざるをえないのでしょうね。
http://www.nhk.or.jp/drama/semi/

八日目の蝉

八日目の蝉