ローベルト・ムージル『寄宿生テルレスの混乱』

お金を盗んだ美少年バジーニが、同級生に罰としていじめられている。傍観していたテルレスは、ある日突然、性的衝動に襲われる…。寄宿学校を舞台に、言葉ではうまく表わしきれない思春期の少年たちの、心理と意識の揺れを描いた、『特性のない男』ムージルの処女作。

過敏に現代風な翻訳の調子に、最初私は戸惑いました。

友人の手が「みだら」に見え性的衝動を覚える(?)場面では〈その手に触れられると思っただけで、むかつくような戦慄がテルレスの肌に走った〉。むかつくような戦慄って一体どんな戦慄なんだろう。他にも理解不能な箇所がたくさんありました。

なにより帯のボーイズラブの古典という煽り文句が許せん。そんな小説じゃない。全寮生男子校=BLという単純な図式に古典を貶めないでくれと、おじさんは勝手に思っていたのだが、三分の一を過ぎたくらいから別のギアが入りだした。成熟する前の少年の心理をこと細かく表し、結局それがわけのわからないものになっていく過程が愛おしい。最後の百ページ、主人公の前でバジーニが脱ぎはじめる場面あたりからはページをめくる手が止まりませんよ。

(追記)BLというか思春期の少年(未分化な性)については、いつか語りたいと思っております。

寄宿生テルレスの混乱 (光文社古典新訳文庫)

寄宿生テルレスの混乱 (光文社古典新訳文庫)