桜庭一樹『青年のための読書クラブ』

東京・山の手の伝統あるお嬢様学校、聖マリアナ学園。校内の異端者(アウトロー)だけが集う「読書クラブ」には、長きにわたって語り継がれる秘密の“クラブ誌”があった。そこには学園史上抹消された数々の珍事件が、名もない女生徒たちによって脈々と記録され続けていた―。

各時代の読書クラブのメンバーが書き残す、裏の学園史から聖マリアナ学園と読書クラブの歴史を浮き彫りにするという、面倒 (大変)そうな構成をとっております。
桜庭作品の根底には、ルールからの逸脱、言い換えるなら、禁忌(タブー)があるように思えてなりません。
拝読していないので恐縮ですが、直木賞受賞作『私の男』において、近親相姦を描いた、などというセンセーショナルな内容だけが一人歩きしたような感があります。読書クラブにおいては記憶に残されないであろう裏の真実を書き残すという、これもまたタブー。
本物語において、読書クラブは、変わり者の集まりで、権力を握っている生徒会や演劇部からすると、権力から逃れた自由な位置におかれています。
ただ、権力から逃れてはいても、生徒会からは厄介な目で見られるし、なにせ変わり者なので、物語の引き金をよく引いてしまうんですね(苦笑)。
しかし、タブーなのは物語だけではない。文章や構成こそタブーの連続なのです。
読書クラブのメンバーの一人が記す、クラブ誌。視点が一定ではないのはともかく、(クラブ誌の)筆者が、知りえない(だろう)ことも心理状態も書かれている。
全部、創作ですから。
っていう、エクスキューズなのかしら。
文章作法(?)上、視点を頻繁に変えることはなるだけ避け、筆者が知りえないことは伝聞などでしか、分かりえないはずなのだけど。
まるっきり神の視点。ひつこいですが、知りえない事実が書かれている以上、どうしても、これが虚構であるということが明るみになるんですね。
こういうタブーも平気で物語(自体は虚構!)のために捧げる桜庭一樹氏の精神には、目を見張るものがありました。

青年のための読書クラブ

青年のための読書クラブ